名古屋高等裁判所 昭和30年(う)68号・昭30年(う)67号 判決
論旨は、本件の真犯人は他にあり、その氏名は被告人弁護人の共に知るところで、事情あつてこゝにこれを明かに為し得ないが、この点に関する被害者等の供述は誤りである。なお仮に被告人等を原審の如く犯人と認めるも、原判示第三の場合、被害者田口宏外二名は同判示の被告人等が為したとせられている言動にいさゝかも欺罔せられなかつたもので被告人等の右言動と被害者の金員交付との間には何等因果関係がないから、同判示の如く詐欺罪の成立すべきいわれはない。殊に被告人金については同被告人が原判示第二の如く賭博の見張をしている限り、任務の性質上賭博本犯の直近に位置している筈なく、従つてこれが其場で賭博本犯と共謀して原判示第三の如き所為に出たものとするのは明かに矛盾で、この点原審の事実誤認の疑は充分である。なお本犯である被告人酒井保が原判示第一の通り単純賭博とせられているのに、被告人金成出の原判示第二のその幇助を以て常習賭博幇助と認定せられたのは幇助罪の従属性に違反するもので、以上いずれにするも、原判決は事実誤認の瑕疵があるものとして破棄を免れないものであるというに在る。
よつて記録並に原審取調の証拠を調査するに、被告人等は、いずれも、本件事犯発生の直後、被害者等の届出指示により、現場附近に於て警察職員の逮捕するところとなつたもので、当初司法警察員の取調に対しては共に事犯に全く無関係である旨陳述していたものであるが、検察官の取調を受くるに及んで夫々依然原判示第三の事実は全く否認しながらも被告人酒井は原判示第一の賭博の際、胴元となつたのは関西方面で知り合いになつた男であるが、自分も所謂さくらとして賭客を装つて二回金を賭したと陳述し、被告人金に於ては原判示第二の通り見張をしたことを自白し原審に於ても検察官に対すると同旨の陳述を繰返し今日に至つていて、これ等の状況と原判決挙示の原審証人田口宏、同近藤与市、同横井弘幸の各証言(但し前二者は二回)原審検証の結果によれば原判示第一の「伝助」賭博に際し、これに共謀加担し所謂さくらとなり、見張となつて、これを扶けたものは他に数名に及んでいて、当日同所に於て賭博を為すにつき、他に親分的人物のあつたかどうかは知る由もないがいずれにするも本件の場合も胴元として賭客に応接したのは被告人酒井であり、被告人金が同判示第二の通りその見張りをした一人であることは何等疑の余地がない。そして賭博幇助を処罰するに当つては、本犯が賭博の非常習者として単純賭博とせられる場合でも、幇助者が賭博常習者と認められる限り、常習賭博幇助として処断すべきもので(大審院大正十二年二月二十二日判決、同判例集第二巻一〇七頁参照)、被告人金が賭博常習者であることはその賭博の前歴及び本件犯行に加担の状況から見て明かであるから、同被告人の本件見張を以て常習賭博幇助とした認定にも何等誤りはない。
(裁判長裁判官 高橋嘉平 裁判官 山口正章 裁判官 海部安昌)